さくらの雲*スカアレットの恋 感想

アメイジンググレイスに続く同一ライターの作品ということで、非常に期待していた。
よもやここまでの名作になろうとは。
想像を遥かに上回るクオリティであった。

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前作アメグレがほぼ一本道であったのと同じように、今作も一本道。
設定が非常に緻密でかつ、時折混ぜてくるノンフィクションが良いアクセントになっていた。
歴史オタクの自分としても非常に響く。

まず大正浪漫。
自分が愛してやまない「僕は天使じゃないよ」と似たような舞台。
さらに特高・憲兵・凌雲閣。
歴史的な出来事に関しては微妙にズラしてはいる。
原敬首相は料亭ではなく東京駅で暗殺されている。
その他主人公が防いだ事件について歴史的には存在しない。
虎ノ門事件かなと思わせる描写もあるが、やはり時代が3年ほど合わない。
そもそもの歴史が我らの世界とは異なる世界線なのだろう。
それはそれとして、歴史好きにはたまらない作品である。

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こういったしっかりと完結していて誰がプレイしても理解できる作品は考察・感想が難しい。
何を書いてもストーリーをただなぞるだけになってしまう。
特に印象の残った場面をピックアップしていきたい。

何度か法律用語が出てくる。
本作で使われる「善意の第三者」とは、一般的な善意・悪意ではない。
何らかの法律行為がなされる場合に、それに関わる事情を知っているか否かで善意・悪意が判断される。
基本的に判例では、善意の第三者が保護されることがほとんどである。
例:A所有の甲土地に関して、AB間で甲土地に対する売買契約が締結されたが、そのことを知ったCがAC間で甲土地に対する売買契約を締結し、さらに所有権移転登記まで行ってしまった。さらにCはDとの間で甲土地に対する売買契約を締結し、所有権移転登記を行った。
この場合、CはAB間の売買契約を把握していたため、背信的悪意者として契約は取り消されるが、一方で、転得者DはAB間の売買契約を知る立場になかったため、善意の第三者として保護される。よって、BはDに対抗することができない。

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閑話休題。

歴史がアクセントとなっていたことと同様、著名な小説もまた重要な構成要素であった。
メリッサルートの「オリエント急行殺人事件」然り、「二銭銅貨」然りである。
列車に集められた時点でオリエント急行であることは察しがつくが、南無阿弥陀仏が二銭銅貨であるとは、江戸川乱歩好きでなければ気付かなかっただろう。
かくいう自分も怪人二十面相シリーズは好きでハマっていたのだが、二銭銅貨は読んだことがなかったのでこの暗号に気付かなかった。
これを機に読んでみるかね。

個人的にはメリッサルートの最後が美しすぎて衝撃だった。
あのエンディングは素晴らしい。
諸手を挙げて称賛したい。
特に演出は神がかっていた。

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それはそうと、画家の真霧景虎氏。
アメグレにいたねぇ。
美術部の先輩、コトハが。
確か苗字は真霧。
どこかで繋がっているのかもしれないね。

歪みが正され、未来へと帰還した彼が最初に見た人物は、彼のひ孫。
……レベッカとの間に子供ができたというその事実が最大の歪みなのでは…とも考えたが、それも桜雲ではなく令和へ移行するために必要なものであったと考えることにした。

梶井基次郎著「櫻の樹の下には」が引用されていた理由についても考えてみる。
文字通り地獄、桜雲2年のかの桜の下には確かに死体となった人々の怨念が埋まっていたことだろう。
その怨念が美しくも儚い桜を満開にさせていたのだ。
それが、冒頭の引用。
では最後、物語のフィナーレではどうなっていたのか。
櫻の樹の下には屍体が埋まってゐる!
なるほど死体が埋まっている。
だがそれは、司に未来を託したレベッカであり、遠子であり、メリッサであり、蓮なのだ。
エンドロールで強くそのことを実感した。
彼らの想いが数十年、司が未来に帰ってくることを心待ちにしていたのだ。
美しくも悲しみに満ちていた桜が、明るく未来を照らす存在となる。
今感想を書いていても涙腺が緩くなるほどの帰結である。

願わくば、我らの令和も平和で満ちていることを期待する。


全体として

間違いなく今年の新作で最も楽しめた作品である。
ライターの冬茜トム氏は名作しか書けないのかもしれない。
アメグレに引き続き最後まで飽きさせなかった。
ギミックだけでなく、ヒロインの魅力も十分に描かれている
梱枝りこ氏とのコンビは最高なので、是非次回作もこの二人でお願いしたい。